気ままに文学を

一般の小説や同人誌の作品の感想を述べていきます。

09<< 12345678910111213141516171819202122232425262728293031 >>11

プロフィール

sanzo-iwaki

Author:sanzo-iwaki
メリー・ホプキン〔英〕は今でも聴きます。
毎週更新!が目標。今後の予定。カズオイシグロ、村上春樹、水村美苗、群系各評論。


最新コメント

最新トラックバック

カテゴリ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

野村甚三郎『国境とは何か:領土・制度・アイデンティティ』芙蓉書房出版

『国境とは何か:領土・制度・アイデンティティ』
【評者】大堀敏靖(世相評論家)
 国家とは何か、国境とは何か。この問はわが国おいては、
日常の中で発せられることはまずない。「平和」を謳歌し
ている戦後の日本では殊にそうだった。他国人との交流
はあってもひたすら友好の旗に下に限定されたもので、
北朝鮮による拉致被害者家族、国境の漁民などごく一部
例外的な人々のみが「国家」を日常レベルで意識するしか
なかったであろう。ややもすれば、世界中が日本のごとく
に平和で安穏な日々を送っているものと錯覚してしまう。
 しかし、世界一九四ヶ国中そんな呑気な国の方が例外
で、宗教、言語、アイデンティティ、国境等をめぐる紛
争につぐ紛争に明け暮れているのが、世界の実態である
ことが、本書を読めば思い知らされる。殊にアフリカの
スーダンでは、コンゴ周辺五ヶ国を巻き込んだ一九九八
年からの紛争でも三百万もの犠牲者が出ていると知って
唖然とする。ニューヨークのテロで死者六千人とアメリ
カは騒いでいるが、ケタが違う。二百万、三百万の人間
が、「想像の共同体」のために生命を失っている。心の
中に描かれた「共同体」のために生命を賭けて戦うのが
人間である。それほどの価値を待ったものが国家であ
る。村でも町でもない。イデオロギーでもない。「イコ
ール自分」と言い切れる生命の外延、それが国家である。
 本書中には日本という最も身近な国家についての考察
はあえてなされていないが、諸外国の国家形成や現状を
見ていく中で必然的に浮き上がってくるのが、自国日本
のことである。四面海に囲まれ、ほぼ単一民族、単一言
語、しかも一文明を形成してきた日本という国の僥倖を
考えざるを得ない。わが国にも流血の歴史はあった。し
かし、西欧諸国の比ではない。おそらく日本の国家形態
は他国人には垂誕の的なのだろう。皮肉なことに当の日
本人は空気のようにそれに気づかないが。
 「国家とはアイデンティティの『器』であり、国境と
はその外壁である」と著者は定義する。第三章のアイ
デンティティに関する深い考察は本書の圧巻であろう。
国家を究明しようとすることは必然、人間存在の本質に
関わってくる。おそらくその解答は、言葉を尽くしても
永遠に完全なものは得られないだろう。殊に意識の薄い
われわれ日本人には、「国家」という生の本質に関わる
高度な概念を少し深く考えてみようとする時、本書が絶
好の入門書となるのは請合いである。  (大堀敏靖)
(『群系』第20号、2007年、所収)
スポンサーサイト

 | ホーム | 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。